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の家臣らの殆んどが従う事になるであろうから、他の手勢を加えれば四千、五千は軽くいくかも知れぬ。もしかしたら、それ以上になる可能性とて捨てきれぬ」
「な、なれど、戦は数でするものではございませぬ!父上様のこと、不利な状況を一転させる何か良い戦術をお考えになられるはずです」
「お濃」
「父上が敗れるなど…、そのようなことは決して…決してございませぬ!」
幼い頃から、雄々しく勇敢な父の姿だけを見続けて来た濃姫にとっては、
道三の完全敗北など思いもよらない、寧ろ考えたくもない事であった。
声を詰まらせながら訴える妻を見て、信長はふと穏やかな表情を浮かべると
「そうじゃな。確かに数ばかりが頼りの軍は、想像以上に脆いものじゃ。例え相手方が千の軍勢で来ようとも、日々の鍛練次第では僅か数百の軍にとて勝利の可能性はある」
姫の主張に同意するように、小さく「ん」っと頷いた。
「そもそも義兄殿がどのような戦をなさるお方か分からぬ故、儂もはっきりとした勝敗の行方までは判断出来ぬ。
親父殿が評するように義兄殿が無能者ならば勝ち目もあろうが、もしも…………いや、今の段階でそようなことを考えても致し方なかろうのう」
信長は大きな独り言を呟くと、憂い顔の姫の頭をそっと撫でた。
「何という冴えない顔をしておるのじゃ。そなたらしゅうもない」
「…なれど殿…」
「案ずるな。親父殿は我が岳父にして、大事なる後ろ楯じゃ。親父殿に危機が迫りし時は、必ず儂が助けに参る」
力強い夫の言葉に、濃姫の目が俄に輝いた。【瘦腿針】BOTOX 瘦小腿療程資訊 - Cutis
「それは、まことにございますか!?」
「ああ。儂は正徳寺にて親父殿と約束致した。親父殿が危機的状況に陥った時は必ず援軍を寄越すとな。
村木砦での戦の折に、親父殿は我が願いを聞き入れ美濃勢を尾張へ寄越してくれた。今度は儂が、親父殿の期待に応える番じゃ」
「殿──」
濃姫は何とも頼もしそうな目で、勝ち気に微笑(わら)う信長を見つめた。
「故に、そなたは狼狽えることなく、来るべき時の為に随時備えをしておくよう。 …分かったな?」
姫は首肯するように目を軽く伏せると、夜具の上に双の手をつき、安堵と決意の表情で低く頭を垂れた。
やがて濃姫が、下げた頭を静かにもたげると
「─!」
急に信長の両手がにゅっと姫の前に伸び、彼女の左右の頬を勢い良く摘まんだ。
突然のことに濃姫は目を白黒させる。
「と、殿!何をなされまする…!?」
思わず姫が声を上げると、信長はそのまま妻の頬を真横に伸ばした。
狼狽えたように泳ぐ濃姫の両眼が、悪戯っぽく笑う夫の細面を不規則に捕らえていると
「そなたの方が“儂よりも”ずっと滑稽な顔をしておるわ」
信長は爽快さの感じられる声で言った。
その刹那、つい数分前の出来事が頭の中を激しく駆け巡り、濃姫は思わず「あっ」と眼孔を広げる。
「儂の顔を玩(もてあそ)びおったお返しじゃ」
「……っっ」
信長の口元が薄く開き、白い八重歯が覗いていた。
それからひと月、またひと月と、月日は静かながらも着実に過ぎていったが、あれ以降美濃からは、これといった大きな報は届かなかった。