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「殿、その点についてはどのようにお考えに?」

Creation date: Aug 6, 2024 1:34am     Last modified date: Aug 6, 2024 1:34am   Last visit date: Mar 11, 2025 12:36pm
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Aug 6, 2024  ( 1 post )  
8/6/2024
1:34am
John Smith (johnsmith786)

「殿、その点についてはどのようにお考えに?」

 

口々に話していた一同の目が、いっせいに上段に向いた。

 

期待のこもった、熱い視線の矢を直に受ける信長であったが、先程のぼんやりとした表情は崩すことなく、

 

「…きょう」と、また一言呟くと、やおら脇息から身体を起こして、力なく一同の顔を見据えた。

 

「今日は何やら疲れた…。もう夜も遅い故、皆 帰って良いぞ」

 

「──!?」

 

「話し合いの続きはまた明日で良いであろう。皆々下がるのじゃ」

 

「し、しかしながら殿ッ」

 

「いや、良い。儂が出て行く」

 

やる気なさげに一同にそう告げると、信長は立ち上がり、そのまま出入口の方へ歩いて行った。

 

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と戸襖が閉じる音が座に響くと、一同は唖然とした面持ちで、隙間なく閉ざされた出入口の戸を見つめた。

 

「…まさか、本当に出て行ってしまわれるとは」

 

「このような非常時に、殿はいったい何をお考えなのじゃ」

 

「ほんに困ったものだ。運が尽きる時には知恵の鏡も曇ると申すが」

 

「どうやら、今がその時のようじゃな」

 

一同はそう言って、軽くせせら笑った。

 

そんな男たちの嘲笑を、信長は部屋の外で、耳をそばだてて聞きながら

 

 

『  馬鹿な者共めが。儂が調べさせただけでも、隙あらば今川に寝返ろうと目論む奴らがあの中に数名はおると申すに…。

本格的な軍議などしておったら、敵方にこちらの情報が筒抜けじゃ。危ないわ、危ない  』

 

 

ふっと鼻で笑い、暗い廊下を静かに歩み始めた。

 

するとそこへ、手燭を手にした恒興が駆けて来て、信長の足元に素早く控えた。

「おお、恒興か、遅かったな。  ──それで、前線の丸根、鷲津(わしづ)の砦の様子は如何じゃ。盛重たちから何か報はあったか?」

 

「いえ、今はまだ何も。 …されど、今川の大軍が清洲を目指して着実に進軍しているのは確かにて、両砦が今川勢の攻撃を受けるのも時間の問題かと」

 

「…左様か…。せめて鷲津だけでも持ちこたえてくれれば良いがのう」

 

「まことに。 ──して、軍議の方はどのような纏まりに? 出陣にございますか、それとも籠城にございますか?」

 

「いや、まだ何も決まってはおらぬ」

 

「そうですか…」

 

恒興は憮然とした面持ちで俯くと、やがて何かを思い出したような様子でハッと顔を上げ

 

「もしもご出陣と相成りました折は、泥濘(ぬかるみ)に足を取られぬよう、ぐれぐれもお気をつけ下さりませ」

 

頭を垂れつつ、慇懃に申し伝えた。

 

「泥濘とな?」

 

「明日はひと雨降るやも知れませぬ故」

 

「何、雨じゃと」

 

「はい。流れは比較的緩やかにございまするが、只今 黒き雨雲が、越前から美濃に向けて徐々に進んでいるそうで、既にあちらでは前が見えぬ程の豪雨になっているとか」

 

「……雨雲、…豪雨…」

 

それを聞いた途端、信長は何やら宝の山でも堀り当てたような顔をして、素早く縁から身を乗り出すと、暗い夜空をじっと見上げた。

 

雨雲ではないが、確かに厚い雲が多くこちらに向かって流れて来ている。

 

風も止むこともなく、大気が宙を流れるかの如く緩やかに吹き続いていた。

 

 

『 逸れることなく、上手い具合に雨雲がこちらに流れてくれれば───もしや… 』

 

 

信長は天を仰(あお)ぎながら、コックリと頷くと

 

「遅過ぎてはならぬ、かと言って早過ぎても。 後は天を味方に出来るか否か、それにかかっておる」

 

「…え?」

 

「恒興。悪いがそちの配下の者の中で特に足の早き者を、至急西へやってはくれぬか?」

 

踵を返し、再び恒興を見やった。

 

「西、にございますか?」