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三津は深い溜息をついてしずと次郎に振り返った

Creation date: Apr 15, 2024 3:10am     Last modified date: Apr 15, 2024 3:10am   Last visit date: Jul 25, 2024 1:21pm
1 / 20 posts
Apr 15, 2024  ( 1 post )  
4/15/2024
3:10am
John Smith (johnsmith786)

三津は深い溜息をついてしずと次郎に振り返った。それから座敷に手をついて深く頭を下げた。


「お騒がせしてすみません……。ご厚意で働かせてくれはったのに穴を開ける事になってホンマにごめんなさい。
お二人から受けた御恩は生涯忘れる事はありません。」


桂も三津の隣りに並んで同じように頭を下げた。


「とんでもないっ!お三津ちゃんにはこっちからお礼言わんと……。初っ端から怪我させてしまったのにいつもにこにこ働いてくれて……。」


「怪我?」


聞いてないなと桂が顔を上げたがすかさず三津はその後頭部を押さえ込んで畳に擦り付けた。


「いいえ,楽しく働かせていただきました……。一之助さんも……。もっと一緒に甘味食べに出掛けたかったです。」


「それは二人きりで出掛けたのかい?」


押さえつけられた頭がゆっくりと一之助の方へ向く。
絶対目を合わせてはいけない。そう感じた一之助は思い切り顔を逸して何も見なかった事にした。


「もっもうお顔を上げてください……。」


桂が余りにも酷い扱いを受けるので次郎が堪らず声をかけた。
三津の手から解放された桂はゆっくり頭を上げた。
おでこにうっすら畳の跡がついている。まぁまぁの力で押さえ付けられていたようだ。


「で?木戸様今日はどうするそ?実家に帰るそ?」


文がもう怒るの疲れたとぐったりした顔で桂を一瞥した。【瘦腿針】BOTOX 瘦小腿療程資訊 - Cutis


「今日は実家に戻るよ。明日三津を迎えに行って,それから親に紹介するつもりだ。」


「それならうちに来ていいですよ。まだ三津さんと話さんにゃいけんこと沢山あるでしょ?私実家帰るし……。」


文の申し出に桂の目が輝いた。


「ではお言葉に甘えて。三津,帰ろう。」


嬉々として三津の袖を引っ張った。三津はうんざりした顔でしずと次郎にぺこりと頭を下げた。
明日また店には顔を出すと約束して店を出た。


「帰ってもう一度話聞かせてもらいますからね!」


文は目を見開いて桂を怒鳴りつけた。桂はにやけた顔で分かってると生返事をした。視線はずっと三津に釘付けだ。
三津はその緩みきった顔の桂を見上げた。どうしても聞きたい事が一つある。


「九一さんは……どうしてますか……。この事は話してますか……。」


桂は緩んだ表情を引き締めた。


「報告した時は黙って無表情で聞いていた。後から晋作と赤禰君から聞いた話では……覚悟はしてたけど悔しいと,泣いていたそうだ……。」


それを聞いた三津は唇を噛み締めた。涙は堪えきれなかった。
夫婦になれない事を悔しいと泣いてくれた彼を今すぐ抱きしめてあげたかった。

それを聞いた文も涙ぐんだ。
不器用な男がようやく幸せを掴んだのに。


「その件は戻ってから九一と話す時間を取ってあげるから今は何も言わないで欲しい。」


桂からのお願いに三津は黙って頷いた。
家に帰ってから文の尋問が始まった。責め立てたところで婚姻した事実は曲げようもないので,いつから企んでいたのか桂の胸の内を聞くことにした。


「薩長同盟を結ぶに当たって忙しくなりだして,阿弥陀寺にも行けなくなってから考えていた。
迎えに行きたくても行けなくて,居場所も教えてもらえなくて……。
妻にすればずっと傍におけるし……。もう反対されてもどこへだって連れて行くつもりだし……。」


勝手にした事は凄く反省しているような姿勢を見せるが,三津と目が合えばにやけるので文は苛々して舌打ちした。


「あのお店で働いてるのは誰に聞いたんです?中岡さん?」


三津は約束を破られたと思ったがそれは違った。


「中岡君も教えてくれなかったよ。でも簡単だよ。都言葉喋る可愛い子どこ?って聞いたらここの人はみんな教えてくれるから。」


そりゃバレるなと三津と文は顔を見合わせた。それから文は桂に体を向けて真っ直ぐに目を見た。


「木戸様からの文,三津さんにはずっと隠してました。ごめんなさい。」


頭を下げる文を桂はいいよと笑って許した。


「そんな気はしてた。でも三津が京に来てくれた時は想いが届いたと勘違いしてしまった。
出石の時といい私の書く文は三津に届かないみたいだから,書かなくてもいいようにこれからは傍に居る。」


優しい目に見つめられた三津は反応に困って目を伏せた。


「でも全部読みました。文さんは捨てずに全部置いててくれました。」


「うん,文ちゃんありがとう。だからもう顔上げて。本当に文ちゃんの言う通り元凶は全て私だからね。」


文は寛大な御心に感謝しますとゆっくりを頭を上げた。


「後は三津と二人で話をさせてもらっていいかい?」


文に確認をしたが,文は三津に大丈夫?と確認をした。


「はい,大丈夫です。元々二人で解決すべき問題やったんで。」


三津は文と伊藤に心配しないでと笑ってみせた。それにもう夫婦であるなら向き合わないといけない。
実感は湧かないがもう伴侶なんだ。伊藤が言うんだから間違いないだろうと思う。


『小五郎さん一人なら信じんかったけど。』


ちらっと桂を見れば目が合った。嬉しそうに目尻を下げている。男前が台無しだなと思った。


『こんな風にしたのは私か。』


幾松の言う通り責任を取るべきか。骨抜きにした責任は重そうだ。

「準一郎さん。」


「小五郎がいい。」


「でも。」


「じゃないと松子って呼ぶよ。」
「小五郎さん。」


松子だけは勘弁願いたい。遠慮なく小五郎と呼ばせていただく事にした。


「三津,今日は初夜だね。」


「今更初夜とか言います?あっもしかして十三歳ときっちり初夜済ませたから気を遣って私ともしようとしてます?別にそこは気遣ってくれんでいいですよ?」


捲し立てるような言い方とその内容に桂は目元をぴくぴく引き攣らせた。


「ここでそれ出してくる?随分根に持ってるね?」


「許さなくていいって言ったん小五郎さんですからね。」


そう言い返せば確かにと黙り込んだ。


「でも夫婦になって初めての夜だから……。三津とも熱い夜を過ごしたい。」


「私“とも”?その言い方やと十三歳と熱い夜を過ごしたって言ってるようなもんですよ?えっ小五郎さんって幼い子を好んでらっしゃる?だから幾松さんより私?」


流石に煽り過ぎたか桂はカチンときたらしく,眉間にしわを寄せた。
だがそのしわはすぐに消えて,眉尻を垂れ下げ悲しげな表情を浮かべた。


「本当に……申し訳ないと思ってるよ……。君はずっと稔麿にも斎藤にも靡かずいてくれたのに……。」


「今更ですけどね。それに私も九一さんに体許したし。」


「……え?今何て?」


桂は幻聴かなと首を傾けた。


「私九一さんと営みました。京から長府に戻った時に。」


桂は首を傾けたまま硬直した。瞬きすらしない。もしかして心臓止まったかな?と思って左胸に向かって手を伸ばした。が,瞬時に掴まれて組み敷かれた。


「この手慣れた感じがお見事としか言いようがないですね。これを喜んだ女子は数多居たことでしょう。」


「しばらく会わないうちに随分と口が達者になったね。」


「強く生きてかなアカン状況ですからね。それに勝手な事されて怒ってますから。」


三津は怯まずに下から桂を睨みつけた。諦めの境地に入りかけたが“仕方ない”で済まされる話じゃない。
しばらく睨み合った末に桂は三津を引っ張り起こした。


「悪いとは思ってるって……。でも君を手放すなんて到底無理だ。初恋の人だよ?」


「はっ……。そんなん言われたって……。」


年甲斐もなく初恋だなんてよく言えたな。でもどこか嬉しくて三津は咄嗟に目を伏せた。


「それで九一とは……本当に?」


「はい,ホンマです。九一さん言わなかったんですか?まぁ……わざわざ言う事でもないけど……。」


「私にとっては一大事だっ!」


怒鳴り声に思わず体が跳ねた。